有料老人ホームを見学する前に希望条件を整理しましょう(2)前払金をどう考えるか
前回は「月々の予算」をテーマといたしましたが、第二回となる今回は費用関係でもう一題、前払金(入居金、入居一時金)について考えてみたいと思います。
※前払金は以前は「入居金」や「入居一時金」と呼ばれていましたが今は前払金という名称が一般的になっています。このブログでも「前払金」を使用します。
前払金とは
前払金は、簡単に言えば家賃の前払費用です。
家賃15万円/管理費5万円/食費5万円=月額利用料25万円
というホームを例にとって説明します。
家賃15万円を10万円と5万円に分け、5万円は月々支払うこととし、10万円は60か月分先にまとめて支払う…このときの10万円×60か月=600万円が「前払金」ということです。そうすると月額利用料は
家賃5万円/管理費5万円/食費5万円=月額利用料15万円
となるわけです。年金など月々の収入額と月額利用料の間に差があると、差額分は預貯金などで補填しなくてはなりません。年金の範囲内もしくはオーバーするにしてもできるだけその差額は小さくしておきたいという方が多いのではないでしょうか。
こういったご事情のある方は、入居時に一度だけまとまった費用を用意することで月額利用料を下げることができます。
前払金は返ってこないの?
結論から申し上げますと、返ってきます。
上記の例では月々の家賃の一部(10万円)の60か月分として600万円を前払いしましたが、このケースでは例えば入居してからちょうど30か月経過したときに退去したときには残りの30か月分である300万円が返ってきます。この退去はご逝去のほか、他ホームや病院などへの転居、自宅への復帰など理由を問いません。
60か月分の家賃(の一部)の先払いですから、4か月で退去すれば56か月分が、53か月なら7か月分が返ってくるわけです。では入居が61か月目を迎えたときはどうなるのでしょう。
入居時に支払った前払金は60か月分の前家賃ですから、理屈でいえばもう一度600万円をまとめて支払うか、毎月の月額利用料が25万円に戻るかしないと辻褄が合わないことになりますが、600万円の支払いも必要なく、月額利用料も15万円のまま、61か月目以降も引き続きお暮しいただけます。
61か月目以降の差額10万円分の家賃は、有料老人ホーム側が持つということになり、有料老人ホームにはメリットがありませんが、なぜそのようなプランをわざわざ設けているのでしょう。
「初期償却」がホーム側のリスク回避策
その答えが初期償却です。上の例でいえば有料老人ホームは入居した方が前払でもらっている60か月以内で退去されるのか、61か月を超えて入居が続くのかを入居時点では知ることができません。60か月内で退去された場合は良いのですが、80か月入居されれば20か月分×10万円=200万円がホームの持ち出しになってしまいます。
そこで有料老人ホームは、前払金プランで入居される方から一律で、リスク回避のためのお金を家賃の前払い分とは別に受領することでリスクを回避しているのです。入居時に支払う(初期)お金で、前払の家賃と違って返還されない(償却)される性格のお金であることから初期償却額と呼ばれています。たとえばその額を150万円と設定して例に当てはめてみると…
前払金=前払家賃600万円+初期償却額150万円=750万円
となるわけですね。この例では前払金総額750万円のうち初期償却額が150万円で全体の20%にあたるので初期償却20%と表現します。
例えば入居から30か月経過したときに退去すると300万円は返ってきますが、入居時に150万円余計に払っていますから、家賃を先払いせずに毎月払っていた方が「お得」だったということになりますね。
前払金プランはどんな時に選ぶべきか
3つのポイントを挙げたいと思います。
・入居時にまとまったお金を前払金として用意できる
これは当たり前ですね。前払金プランを選ぶにあたっての大前提です。
・ホームごとに定められた「想定居住期間」を全うできる可能性が高い
これは大変難しいのですが、ご年齢や要介護度、持病等々が判断材料になるかと思います。お元気な高齢者を入居対象としたホームでは想定居住期間を10年~15年としているところもありますが、一般的には4年~6年としているホームが多くなっています。また入居時の年齢により想定居住期間を変えているホームもあります。
・初期償却率と想定居住期間が妥当
前払金が750万円のホームで初期償却率が20%だと最初に持っていかれてしまう初期償却額は150万円ですが、50%だと375万円にもなります。(初期償却率は20%~30%」程度が平均的です)
また想定居住期間は「前払金が返還される期間」ですから、利用する側から見れば長ければ長いほど有利なわけです。
Aホーム 前払金750万円(初期償却20%・想定居住期間5年)
Bホーム 前払金300万円(初期償却50%・想定居住期間1年)
前払金だけ見るとBホームの方が低額ですが、初期償却で150万円取られ、想定居住期間が1年ということは入居後12か月経過すると300万円は全額償却されてしまいます。
Aホームの場合は750万円のうち150万円は初期償却で取られますが、前払家賃分のうち48か月分は返ってくるので750万円ー480万円で270万円、つまりBホームより350万円も高額だった前払金は、初期償却率と想定居住期間によって支払総額が逆転したということになります。
料金表を見るときには、前払金だけでなく初期償却率と想定居住期間も必ず合わせて確認するようにしましょう。
初期償却0%のホームもあります!
有料老人ホームの中には、前払金プランで初期償却ナシ(0%)というホームもあります。
上記の例でいえば家賃15万円のうち10万円を60か月まとめて入居時に払ってくれたら、61か月目以降も家賃は5万円のままで良いよという料金体系です。この場合はまとまった費用を前払金として用意できるなら月払いプランより前払金プランの方が有利です。
このあたりをしっかり踏まえ、月払いプランに絞ってホームを検討するのか、上限を設けたうえで前払金プランも検討の対象とするかを考えると良いでしょう。
次回は「類型」をテーマに考えてみたいと思います。