有料老人ホーム選びの落とし穴(1) 入居金についての「落とし穴」
有料老人ホームなどの高齢者ホームを選ぶ際に見落としがちな「落とし穴」と、その回避法をご紹介することで上手なホーム選びを提言する新しいシリーズです。全10回を予定しています。第1回は…
「入居金についての落とし穴」
です。
初期償却と償却期間と返還金
有料老人ホームなどの高齢者施設では入居時に一括で必要となる「入居金」という仕組みがあります。0円というところから、数千万円が必要というところまでホームによって幅が広いのですが、入居を考える方にとって最も気になる部分でもあります。
この入居金についての「落とし穴」はどこにあるのでしょう。それは「初期償却と償却期間」にあります。途中で退去した際の返還金は、この2つによって決まります。
入居金が750万円と300万円、月額費用は同じというふたつのホームがあったとき、初期費用が安いのはもちろん300万円の方ですが、例えば750万円のホームが初期償却20%・償却期間5年、300万円の方が初期償却50%・償却期間1年だとするとどうでしょうか。
償却については、私たちのホームページ「よくある質問」のQ5でも解説していますのでご参照いただきたいのですが、ホーム側からいうと売上に相当する金額です。入居時に入居者から預かった入居金はそのままホームの売上になるわけではありません。償却期間以内での退去の場合、返還金が発生するためです。
初期償却というのは、預かった入居金のうち、このパーセンテージ分については「返還しない=売上として確定」させてくださいという金額ということになります。そして残額を償却期間の中で、多くのホームでは毎月同じ金額を売上計上(=均等償却)していくわけです。
上記の例でいうと
750万円のうち初期償却20%=150万円を償却、残額600万円を60か月かけて(毎月10万円づつ)償却
300万円のうち初期償却50%=150万円を償却、残額150万円を12か月かけて(毎月12.5万円づつ)償却
していくこととなります。ということは…
入居して例えば12か月経過した後で何らかの理由で退去する…ということになった場合、750万円のホームでは480万円の返還金があるため結果的にホームに支払った入居金は270万円となりますが、300万円のホームでは入居金は12か月経過時に全額償却されていますので入居金の300万円は1円も返って来ないということになります。
入居金だけ見れば350万円の差があったはずの二つのホームですが、このように状況によっては支払総額が逆転することもあるのです。
費用面では、入居金だけを見るのではなくぜひ初期償却額と償却期間もチェックしてください。
次回は「月額費用についての落とし穴」をお届けいたします!お楽しみに!
(ここからは参考までに…)
入居金とは
入居金は平成24年の改正老人福祉法により、「権利金その他の金品」名目での受領ができなくなっています。つまり入居金の内訳はほぼ「家賃の前払い分または敷金」から成っています※
※老人福祉法第29条第6項
有料老人ホームの設置者は、家賃、敷金及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を除くほか、権利金その他の金品を受領してはならない。
先ほどの750万円のホームの例でいえば残額の600万円がその「家賃60か月分の前払い」に相当する分で、例えば30か月経過時に退去した場合、残りの300万円は返還されるということになります。30か月しか暮らしていないのですから、残り30か月分の家賃は必要ないですよね。
初期償却の意味
では入居してから60か月が経過し、61か月目を迎えたときにはどうなるのでしょう。家賃の前払い分は60か月分しか預けていないので、本来であれば61か月目にはあらためて入居金を預けるか、10万円を月々の利用料に上乗せしないと理屈に合いません。
入居時に一度だけならまとまった金額を用意できるという方も、年齢を重ねるごとに追加や割増の費用がかかるとなると話は別です。
初期償却は、償却期間後に追加の入居金や月額利用料の割増をしない代わりに入居者から一律で受領するもので、ホームのパンフレットなどには「想定居住期間を超えて入居が継続した場合に備えてホームが受領する額」などと記載されています。
最近は初期償却を取らない(0%)ホームも出てきていますが、多くのホームでは償却期間経過後も追加金を徴収しない契約になっています。
利用する側からはありがたいのですが、償却期間分の前家賃で償却期間後も追加金なく継続して過ごすことができるのは、本来償却期間内に退去となった方も初期償却分は返還しないとする前提があってのことですので、ホーム側の立場からみれば少し気の毒なようにも、個人的には思います。
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