有料老人ホーム選びの落とし穴(6) リハビリの「落とし穴」
6回めとなる今回は、リハビリの落とし穴についてお話ししたいと思います。
私たちが承るご相談の中でも、この「リハビリ」という言葉が重要なキーワードになる機会が特に数年前から増えたように思います。
ただ、ご本人・ご家族が考えるリハビリと、有料老人ホームで提供しているリハビリとの間に乖離があると、「落とし穴」にはまってしまうことも少なくありません。入居先ホームを選ぶときの大きなポイントになっていることから、前回シリーズ「私たちがホームを見学するときに確認していること」の第4回でも取り上げましたので合せてご参照ください。
老健と有料老人ホームでのリハビリの違い
入居先ホームを検討されるときに、リハビリを重要項目に挙げる方の中には、老健(老人保健施設)に入所中の方が少なくありません。
この老健でのリハビリと、有料老人ホームで提供されるリハビリとの違いをつかむことは、「リハビリの落とし穴」にはまらないための第一歩です。何が違うかというと、ひと言でいえば「目的」です。
老健で提供されるリハビリの目的は、「在宅復帰」にあります。つまりケガや病気で入院していた高齢者が治療を終えたあと、低下した身体機能を回復し、在宅での生活に戻るために行うのが老健でのリハビリの目的なのです。そのため老健でのリハビリは、担当の職員がマンツーマンで行うものが中心で、入所期間も原則3カ月と短期間となっています。
有料老人ホームは「生活の場」
在宅復帰のためのリハビリを短期集中でみっちり提供する老健でのリハビリが「治療の場」である病院の延長線上にあるのに対し、有料老人ホームでのリハビリは、家庭の延長線上にある「生活の場」で提供されるものになります。
10あった機能がケガや病気で2に落ちてしまったときに、在宅復帰できるように集中的なリハビリで3にして5にしてというのが老健でのリハビリだとすれば、5まで回復した機能を維持し、4や3に落とさないようにするのが、「生活の場」である有料老人ホームでのリハビリということになります。
期間を区切っての短期集中型ではありませんから、老健で行われていたような専門職によるマンツーマンでの「個別リハビリ」は、後述するリハビリ強化型のホームでも週に2回程度のところが多く、1回あたりの時間も30分以内と短いことから、物足りないと感じる方もおられると思います。
個別リハビリだけがリハビリでしょうか?
老健ではほぼ毎日、マンツーマンを中心としたリハビリが受けられますが、リハビリを受けていない時間は「空白」になりがちです。これは「治療の場」の延長線上にある老健では当然のことで、リハビリの時間以外は食事や入浴などを除き、ベッドの上で過ごす時間がどうしても多くなります。
近年は季節行事やお花見レクリエーションなどアクティビティに力を入れる老健も少しづつ増えているようですが、3カ月を目処に入所者が入れ替わる施設の性質上、仲の良い友だちを作るのも限界がありますね。
一方、有料老人ホームでは家庭の延長線上にある日常生活をすべてリハビリととらえます。ベッドから体を起こすのもリハビリ、レクリエーションに参加して大きな声で歌うのもリハビリ、職員やほかの入居者との交流もリハビリということです。これらの動作が難しいという入居者には、見守りやお手伝いを提供していきます。このような仕組みを「生活リハビリ」と呼び、これに集団で行う体操などを組み合わせたものが有料老人ホームでのリハビリということになります。
リハビリを強化した有料老人ホームも
「生活リハビリ」が有料老人ホームでは中心となりますが、近年は理学療法士や作業療法士などの専門資格を持った職員を常駐させた、いわば「リハビリ強化型」の有料老人ホームも増えてきました。特に定められた基準があるわけではないのですが、専門の資格を持った職員を常勤換算で1名以上配置していることがひとつの目安でしょうか。
リハビリの専門職が常駐する=老健のようなリハビリが受けられるというわけではないことには注意が必要ですが、それでもなおリハビリ強化型有料老人ホームには、従来の有料老人ホームより以下の3つの点において大きなメリットがあると思います。
リハビリの専門職が常駐することにより、個別のリハビリが提供できるのが一点、個々のご入居者の身体機能の評価と、その評価に合わせたオーダーメイドのリハビリプランが策定でき、定期的な再評価によって継続的な機能訓練が行えるというのが一点、そしてそのリハビリプランをケアプランに落とし込むことで日々入居者のお世話をする介護・看護職が常に身体機能を把握しながら適切なケアを提供できるのがもう一点のメリットです。
リハビリ強化型のホームを見学するときには特に、リハビリプラン策定から介護現場までの落とし込みがどのような流れで行われているかを確認すると良いと思います。
前述のとおり機能の維持が有料老人ホームでのリハビリの基本ではありますが、リハビリ強化型のホームでは要介護度の軽化、車いすから杖歩行への改善など、リハビリの効果が目に見える形で現れているホームもあります。このような実績についても聞いてみると良いでしょう。
「生活リハビリ」の落とし穴
有料老人ホームでのリハビリの中心が「生活リハビリ」であることはその通りなのですが、定義が曖昧で幅広い意味を持たせられる便利な言葉であることから、安易かつ軽々しい用法で使われているケースも見られます。
リハビリはどのように行われていますかとの質問に対し「ウチは生活リハビリですね」との回答を聞くだけで安心してしまうとすれば、それは大きな落とし穴になることがあります。
リハビリの専門職が不在なので個別リハビリは提供できない、体操など集団でのリハビリも不定期というホームにとって「生活リハビリ」は便利な言葉なのです。極端な話「特に何もやっていません」とほぼ同じ意味で使われていることすらあります。
生活リハビリと事故リスクの問題
杖をついて、あるいは手すりなどにつかまりながら、横に職員が付いてゆっくりでも自室から食堂まで歩いて行けるのであれば、日に三度の「生活リハビリ」ができるはずですが、車いすにお乗せして職員が押してお連れした方が効率は良いですし、転倒など事故のリスクも大幅に軽減できますよね。
車いすで食堂までお連れした方も、座った姿勢が保てる方なら食堂のいすに移って召し上がっていただいたほうが「生活リハビリ」になりますね。そもそも車いすは移動の手段であって、「座るための椅子に車が付いている」のではないのですから。これも効率と事故リスクの問題から車いすのまま席についている風景を見学先のホームでもよく見かけます。
人手がギリギリ、事故も怖いとなると、このように生活リハビリの機会はどんどんカットされていきます。歩くことのできた方はどんどん歩けなくなり、ゆっくりなら車いすから普通のいすに移れた方も、移ろうとすらしなくなるでしょう。
人員体制や施設の規模、食堂の配置(各階設置なのか、1フロアの大食堂型か)、入居者の要介護状況などにもよるので一概には言えませんが、わかりやすいところではこれら食事どきの対応について聞いてみるとそのホームでの生活リハビリについての考え方の少なくとも一端はわかると思います。
少し長くなりましたが今回はこのあたりで。
次回は「運営会社についての落とし穴」です。どうぞお楽しみに!
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