有料老人ホームの居室は個室であるべきか問題
先日、「有料老人ホームの居室にトイレは必要か問題」という記事をアップしましたが関連してもう一題、考えてみたいと思います。
有料老人ホームはいま大半が「個室」です。
平成29年10月時点の厚労省の統計結果によると、特別養護老人ホーム(特養)の個室率が74.6%になったそうです。以前は四人室が中心でしたが、平成18年以降は個室化が進み、今はむしろ個室が主流といってよい数字ですね。
一方、有料老人ホームは介護保険制度が始まる前は富裕層向けの住まいで、もともと個室(夫婦室は個室として計上)が中心でしたが、制度の施行以降も、企業の独身寮など元が「個室仕様」の建物を改修した物件が多かったことや、利用者側のプライバシー意識の高まりなどを受け、その多くが「全室個室」での開設となっています。
二人部屋や四人部屋のいわゆる「相部屋」仕様のホームは、特に首都圏ではその気になって探さないとなかなか見つからないほどです。
この「相部屋」の存在価値について考えてみたいというのが本稿の趣旨です。
「相部屋だと困ること」をまず考えてみましょう
一般的な病室をイメージしていただくとわかりやすいですね。まず荷物はベッドまわりのわずかなスペースで収めなくてはなりません。また私的なスペースは仕切られたカーテンの内側だけですからプライバシーの確保も難しいでしょう。テレビ・ラジオの音なども同室の他入居者に気を遣わなくてはいけませんし、トイレも必然的に共用のものを使用することになります。また気の合わない人と同室になれば、ストレスの大きな原因になることでしょう。
…結構困ることがありますね。
では相部屋の良いところは?
このようにいろいろと困ることも多い相部屋ですが、良い点はないでしょうか。今までのご相談案件の中で相部屋のホームをお選びになられた方からのお話や、私たち自身での現地見学時に気づいたところを総合すると、いくつかメリットも見つかります。
◎効率的な職員配置が可能に
居室を巡回するときなど、ひとつのお部屋に訪室すれば、四人室なら四人の入居者の安否を確認することができます。個室の場合はひと部屋ごとにお一人の入居者しか対応できませんので、特に夜間など職員数が少ない時間帯はスタッフの負担が軽減されることで結果的に個別対応のケアに時間を割くこともできます。
◎寂しさの軽減に
常に人の気配がある相部屋では、独りぼっちの寂しさは感じなくて済むことでしょう。ご入居者の性別、身体状況、認知症の周辺症状の有無や軽重などに応じたホーム側の居室調整が機能していることが前提となりますが、話し相手やお友達が同室でできればメリハリのある生活が送れることもあります。また同室の入居者は、入居者の急変などをスタッフに伝える見守り者になってくれることもあることでしょう。
◎費用が安い
この点はやはり大きな魅力です。全室個室のホームに比べれば、相部屋ホームは新築でも建設コストを抑えることができることもあって低額で入居できるところが多く、ご予算の範囲内で収まるという理由で相部屋ホームへの入居を決められた方は、過去のご相談案件でも多くありました。
相部屋ホームを検討するときは…
先の「困ること」の項で挙げたような点は、「我慢」することで簡単に妥協できるようなものではありませんので、どうしても相部屋ホームは難しいという事例もありますが、持ち込むお荷物が少なく、かつ見守り重視のご相談のケースでは、ご予算に応じて私たちもご案内することがあります。
その場合、ご本人の身体状況と近い方が同室となるようにホーム側でどの程度配慮してもらえるかは、ひとつのポイントになるでしょう。
また居室の外、つまり共用のリビングスペースやラウンジなどでレクリエーションやさまざまなアクティビティがあり、居室が「主に夜お休みになる場所」となっているホームなら、相部屋である不都合が軽減されるケースもあると思います。
相部屋ホームの今後
要介護3以上の方しか原則入居することができなくなった特養は個室化が進んでいることで、費用も平均的な有料老人ホームの月額料金に近づきつつあります。
一方、有料老人ホームでも「設置運営指導指針」によってもう何年も前から「居室は個室とする」と記されており、相部屋の有料老人ホームは現在、新しく開設することが困難な状況です。
職員配置や協力医療機関との関係に明確な決まりのある「介護付有料老人ホーム」であることを前提に、快適性とプライバシー保護に一定のルールを設けた上で相部屋ホームの開設がもう少し柔軟にできるようになれば、一つの選択肢として活用の場もあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。