有料老人ホームの費用を実践的に考える(3)家賃編
食費編、管理費編に続き、シリーズ3回目となる今回は家賃編としたいと思います。
入居金(前払金)と関係が強い費目です
有料老人ホームの月額料金を見るとき、その内訳がどうなっているのかというのは意外と気が回らないのではないかと思います。実際、私たちのような紹介センターの相談員でも「○○ホームの月額料金は?」と聞かれれば、おおよその金額は大体頭に入っているものですが、「ではそのうち家賃相当額はいくら?」と聞かれるとなかなか即答できないものです。
さて有料老人ホームというと、入居時に一括で支払う入居金(前払金)のイメージが強い方も多いと思いますが、入居金というのは先の分の家賃を入居時に前払いする費用のことであり、広い意味でいえばこれも「家賃」なのです。
実在するホームでの具体例
私たちも業務提携をしている、さいたま市内の介護付有料老人ホームを例に挙げて、入居金と月額家賃の関係をご説明したいと思います。
このホームはABC3つのプランを選択できるようになっており、入居金は5年(60か月)で償却されることとしています。
入居金を徴収しないAプランの家賃=12万円(月額総額27万円)
入居金が480万円必要なBプランの家賃=4万円(月額総額19万円)
入居金が660万円必要なCプランの家賃=1万円(月額総額16万円)
Bプランは本来の家賃12万円のうち8万円分を、Cプランは11万円分を償却期間である60か月分、前払いしたプランということになります。
お気づきになられたでしょうか。ABCいずれのプランを選んでも、入居後60か月経過時点でのホームへの支払総額はどれも同じになるのです!
そして60か月経過後、前払金を追加する必要はありませんから、このホームの場合、61か月目からはCプランがいちばん「お得」になることになります。
入居金の初期償却との関係
上記の例えばBプランは家賃(の一部)を60か月分しか前払していないので、本来であれば61か月目以降は元の「家賃12万円」に戻すか、再度また8万円を何十カ月分、先払いしないと家賃は4万円にはならないはずですが、実際は61か月目以降も月額家賃は変わりませんし、追加金も不要です。
そこで出てくるのが入居金の初期償却です。これはたいてい
「想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて事業者が受領する額」
というコムズカシイ説明がなされていますが、要は上記の例でいえばBプランで入居した方が償却期間(=想定居住期間)60か月を超えて契約が継続した場合の月8万円の差額分は、償却期間内で退去した方が結果的に補っているということです。
このホームの場合は初期償却を3割で設定していますから、480万円の入居金のうち30%分に相当する144万円分は返還されません。償却期間内で退去した方に返還される額は、最初から144万円分差し引かれており、これが「想定居住期間を超えて事業者が受領する額」ということです。(但し入居後90日以内に退去した方の場合は初期償却分も含め、滞在日数分の実費費用を除いて入居金は全額返還されます。これを業界では90日ルールと呼んでいます)
過去の記事「有料老人ホーム選びの落とし穴(1)入居金についての落とし穴」でも初期償却について触れています。合わせてご参照ください。
賛否ある「初期償却」
この初期償却の取り扱いには賛否があります。入居金を根拠の不明確な理由で差し引くのはけしからんという立場がある一方で、不動産の処分や預貯金などで一度だけはまとまった金額を用意できるという方にとっては、入居金を支払うことで月々の負担を年金の範囲内に収められ、長生きしても負担額が大きく変わらずに済むならその方がありがたいという見方もあるのです。
先ほどの例でいうと今まで月額4万円だった家賃相当額が61か月目以降8万円上がって12万円になるのは、入居時に一度480万円を支払う以上に負担が大きいという方もおられるということです。
初期償却を設定しているホームの設置届は受理しないという県、入居金ナシのプランを必ず併設するなど一定の条件のもとで初期償却を認めている県など、有料老人ホームの設置届を受理する各自治体によっても初期償却に対する対応は異なっており、また認められている県でも初期償却を徴収しない事業者もいたりするので、注意が必要です。
ちなみに初期償却を取らず、また償却期間経過後の追加金もナシというホームもあります。この場合、償却期間を超えて契約が継続した場合の「リスク」はホーム側が持つということになります。